これまでの「喫茶文」をランダムにご紹介していきます。
前回投稿から数日ぶりの今日は、2021年12月19日の喫茶文をご紹介。
6回目の開催のこの日は、さらさ花遊小路さんにて行っていました。
参加者は、背中す春・ふるゆき・山羊昇です。
この日の作からは、ふるゆきのお話をご紹介します。
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喫茶文6
2021年12月19日
執筆:ふるゆき
始発電車だというのにダイヤが遅れているという。掲示板には「五分遅れ」の文字。まだ夜は明けていない。焦ることはない。カラスの鳴き声。山の稜線が粗い解像度で象(かたち)を結んでいる。夜と朝の間で抜粋された束の間の帯状光景。環状線という路線の車窓から、五月雨式にすりかわる街並。フレームの内に、せめて電線だけは同じ一本がつづられつづけていることで、私を座席につなぎとめてくれる。深緑のカバーは、ものが擦れた跡にできた濃淡で、池の淵が描かれている。尻に敷かれた奴凧が睨みをきかせた方角が吉凶を告げる。座標上では日の出と日の入りは弧を張っているはずだが、計算と目視のちがいを指摘しても仕様のないことだと、人はいう。遅れたことに悪びれることもなく、私に傘を差し出したのは、彼女なりの親しみの表現。受けとることもなく、広い廊下に行き交う人の流れに紛れてしまった。らせん状の廊下を一階分だけ上がる。待ち人がいることは分かっているが、昨日買った映画のチケットを提示して、今日の分の借りを返さなければ先へは行けない。館の段上になった座席は、お尻の方が深くかたむいている。底にたまっているのは、老人たちのため息。さわられた尻は赤く焼けて、スカートに穴をあけた。抜粋された表情が私を私の元にとどめ置く。
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「この日、なんだか3人とも疲れていて、ぼーっとしながらカフェ飯を食べ、喋り、書いた記憶がある」と、振り返るふるゆきさん。
言われてみればそうだったなぁ...と、たった2年前のことなのにずいぶん前のことのようにも感じます。
コロナの初期の自粛期間が終わり、世間が動き出しては足踏みしていた頃。
そんな一年を駆け抜けてきた師走のある日、さらさ花遊小路さんのテーブル席のソファに埋もれて、ほぅっと一息ついた喫茶文でした。
次回は、また別の日の「喫茶文」の様子をご紹介します。
年内のワークショップは全て終了しましたが、来年も1月・2月に開催します。
3月には展示もします。
少しでもご興味・ご関心の湧いた方は、ぜひワークショップにご参加くださいね。
ご質問はwebのお問い合わせフォームから承っております。どうぞご気軽に。
(文・背中す春)
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